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山と町と庭の家
神奈川県
house
small scale

神奈川の谷戸の山際に建つRC住宅の改築計画である。そこに、仕事場を含んだ家族の「住まい」が求められた。都心から生活の場を移すことを決心した施主の話をよく聞いてみると、「住まい」を家という建築単体ではなく環境全体として捉えている、と感じた。確かにその環境には、立派なRCの家、丁寧に手を入れられた庭、庭に続く緑豊かな山、閑静な住宅地、とそれぞれバラバラに、素晴らしいものがあった。 

大きな家の沢山の部屋といくつかの環境を組みかえるにあたり、まず、私たちは既存住宅が元々持っていた構造のRC壁柱に囲まれた「中央の間」と、壁柱の外側に張出す「縁」に、空間の質を分けることにした。縁は、主室の一部、廊下、広縁、階段、テラスというように内外に渡る機能を有していたので、縁の空間に敷地内通路と同じレンガ色をつけてみると、縁は内部も外部も屋外の質をはらみ、町の道路から主室までが、一体的に感じられるようになった。 

一方で、環境全体が住まいであると言うには、家と町の関係性だけでなく、山と庭も含んだ関係性を変える必要があったし、2階にある主室が山と庭と町から遠すぎることも気になっていた。そこで、庭に屋外階段という機能を追加し、リビングと庭が近くなるよう空間の配列を組み替えると同時に、屋外階段の形を手すりと踏板に分割しながら慣習的な形から外すということを試みた。慣習から解き放たれた階段の手すりは庭の大きな塀の様に振る舞い、また、段板は町へとそのまま続く道の様に振る舞う。 

何より、機能としては屋外階段と呼ばれる、この「溶融亜鉛メッキドブ漬けの鉄骨」の存在がここにあることによって、山を背にした既存の住宅が堂々とした雰囲気を纏うこととなった。手を加えていない既存部分のこの変化は、相対的に決まる関係性の一つの奇跡的な組合せの現前による。既存部である住宅、山、庭と、新築である「鉄骨」の間にそのような関係が生まれるためには、新築の存在が目立ち過ぎず、脇役に回り過ぎず、対等でなくてはならない。その形を探す為に、私たちは40年という既存住宅の持つ時間を受け止め、古典的な建築の歴史に敬意を払う現代建築を設計するかのように設計に取り組んだ。既存の環境全体に手を加えたわけではないけれど、私たちの行った2つの手法は、この建築を、仕事場を含んだ住まいの営みの環境として広げることになったと感じている。彼の子ども達が故郷を思うとき、この山と町と庭と家が風景として立ち現れることを願っている。 

 

新建築住宅特集2020年6月号掲載