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千葉県鋸南町
house
small scale

敷地は鋸南の緑豊かな里山であり、100年以上前に開耕された簡素な農家住宅が建つ。35 年前にある家族が住み継ぎ、田畑は明るい花の植栽を中心とした広大な庭へと転用され、庭は未完であったが、時間的にも深みのある里山になっていた。本計画は住宅改修だけでなく、里山の履歴のリレーと捉え、主に前の家族の植栽を活かした居場所を徐々につくっていく。このままでは野生に戻るであろう植栽を核に、場を整え、日常的に過ごせる住環境の領域を広大な敷地全体に拡張していく予定だ。初めに計画の核となる古家の一部分30㎡の改修と敷地全体を巡るみちの整備を行う。 
世界のあらゆる場所はだいたい施工中であるとも言えるのではないだろうか。都市では毎日どこかの道路が掘削され、住宅地では毎日建物が壊され、建て直される。常に未完の状態だ。スクラップアンドビルドが展開する中で、自分たちの設計行為に目を向けてみる。果たして、将来スクラップされないような設計をしているだろうか。未来の建築の使い手にバトンを渡すことを意識した設計を行ってみたい。 
この計画は、1700坪の里山の履歴の更新である。里山を引き継ぐとき、売主は家屋の設備などの説明と一緒に、一見すると緑一色の風景のそれぞれの場所についての性格や歴史を語った。おかげで私たちは、敷地を解像度高く捉えることができ、住まいというのは、家屋単体で成立するものではなく、広大な里山全体をひとつの関係性のかたちとして捉えなければいけないことに気づいた。 
家屋の修繕と共に、里山と豊かに付き合うための「建築的な場」を広い敷地全体につくる。不要になった物を敷地内で再利用し、現代的な工業製品や既製品を使いながら、自然に埋もれてしまわないように新たな居場所をつくる。広大な自然の中に打つ小さな一手一手は、現時点では装飾的に見えるかもしれないが、長い時間の中では必要なデザインと感じている。 
将来、次の住み手が住み継ぐとき、より時間の蓄積が感じられる場所になっていれば良いと考えている。 

 

新建築住宅特集2017年1月号掲載