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東京の家
東京都荒川区
house
small scale

東京の東側の、江戸の名残があるエリアに、この敷地はある。新しい駅前広場、雑居ビル、高層マンションなどが高密度に存在する中、古寺のまとまった空と庭も見えるような街である。敷地は駅から近く、通りから入った路地沿いにあり、北側には中高層のRCマンション群が、南側の路地沿いには古い木造家屋が建ち並んでいる。このような現代の東京らしい複雑な環境の中に、音楽スタジオをもつ夫婦二人の住居が求められた。 

この環境の中で、2面の道路斜線から導かれる最大ボリュームを作ると、垂直に立ち上がる「ビル」のようになり、この建物が北側のビル群に加わって、南側の家屋群を孤立させてしまう。南側の木造家屋のような「家」らしい建物として立ち上げると、南側の家屋群が建て変わった時に強い記号性を発信してしまう。私たちは、「ビル」「家」型ではない建物の存在が、この場にふさわしいと考え、マンション側には垂直に立ち上がる大きな壁と小さな窓をつくり、家屋側には低い軒と大きな間戸をつくり、ふたつのファサードを緩やかにつなげるボリュームを考えた。 

一方で夫婦は、深夜でもピアノやドラム演奏のできる閉じた箱と同時に、開放的な場所で休息する時間や、屋外に開くようなリビングで友人とくつろぐ豊かな生活を望んだ。平面的に小さな敷地であること、音響的に閉じたスペースが必要であることから、敷地いっぱいにつくった内向きの空間が必要だと判断した。しかし、同時にふたりの生活には、敷地を超えた広がりが必要なことも理解した。そして、敷地周辺を丁寧に見ると、高密度の建物群の中に、店舗の緑溢れる庭や、家々の間にぽっかり空いた空所を発見できる。 

そこで私たちは、ボリュームの中の「内へ向く空間」と、屋根と床といった板で作る「外へ広がる空間」の相反する両方を共存させることによって、ひとつの建物の中に多様な場をつくることを考えた。具体的には、軒の高さを道路斜線よりも低くしたボリュームをつくりながら、天空率を使って数枚のスラブをボリュームから飛び出させた。スラブと柱から成る開放空間は、敷地境界線を平面的にとらえるだけでは見えてこない、都市の空所に向かって開いている。小さくも伸びやかな、生命力あふれる空間になったと感じている。 

高密度に住まう現代の都市において、「内向きの空間」を生きることは、ごく自然なことになっている。一方で、多様で複雑な周辺環境の中で、そのポテンシャルを展開する開放的な暮らしも、同時に手に入れたいと考えている。そして、このようなハイブリッドな構成や環境は現代都市において重要なのではないか、と考えている。

 

新建築住宅特集 2015年6月号掲載

JA102号掲載

新建築住宅特集 2018年10月号 新建築賞ノミネート

YKK窓研究所インタビュー